夏の日
すぐに思い浮かぶのは
陽射しの強い8月の日だ
祖父はいつもの特等席のソファに座り
私も側にある同じ形のソファに座る
祖母の庭いじりを手伝って
水撒きを一通り終えた私は
クーラーがしっかりと効いたリビングで
汗が少しずつ引いていくのを感じていた
祖父は私の存在に気付きながらも
特に話しかけることも目線を配ることもなく
新聞をゆっくりと読んでいる
テレビもついておらず
只々蝉の鳴き声がこだまする中
暑かった外に目をやりながら
祖父とふたり
リビングの中での時間が過ぎてゆく
母亡き幼い私を
どれだけ可愛がってくれていたのか
あの頃の私は分からなかった
しかしあの静かな時間が
妙に頭の片隅から離れず
ふとした瞬間に
心を癒してくれていた
2017年9月3日
祖父は骨に成った
年齢にしては立派だと
係りの方に褒められたが
感情の表し方さえ分からなかった
祖母は何度も何度も祖父を呼んでいた
今日は昨日より肌寒い日で
夏の終わりを嫌でも感じた
沢山の行き交う人々に揉まれ
駅のホームに降り立って
前の人の背中を眺めながら
とぼとぼ歩く
祖父のいない世界になってしまったのに
誰一人知らないんだと思い知って
涙が止まらなかった
あの夏の日を
大切なあの人を
私だけは忘れない